点字の特殊音の規則性について2016年11月06日 03:34
ふと「ディ(ティ)」の点字が思い出せず「点字 特殊音」あたりでググって見つけた。
それはよいのだが、見つけたページの大半がただ並べているだけで、規則性についての説明がない。
更には「規則性は無いので覚えよう」とか「覚えられません助けて」「頑張れ」のようなものもあった。
いや規則性めっちゃあるよね。
不規則な部分もあるにはあるが、大半は普通の点字や日本語の音韻体系から類推できる。
ちょっと解説してみよう。
まず点字の通常の音の表記は既に理解していることを前提とするが、特殊音の説明の下準備として軽くまとめる。
日本語の点字はローマ字に対応させると分かりやすい。
まずは清音の点字と墨字の対応をローマ字とあわせて表にしよう。
(∅は子音なしを表す)
点字の拗音は、対応する清音の前に拗音符「⠈」を付ける。
⠡ Ka カ → ⠈⠡ Kya キャ
「⠡」が「Ka」に相当し、「⠈」が「y」に相当する。
表にしよう。
表の「×」は、規則性から考えてその位置に対応する墨字が無いことを示す。(未定義のものと、規則から外れる墨字に対応するものがある)
灰色で示した墨字は、本来未定義なのだが、規則性を分かりやすくするため、規則から想定される墨字を埋めた。
というのも、どうも日本点字表記法の特殊音は国語審議会の示す『外来語の表記』に含まれる仮名と対応するように作られているらしく、これの第1・2表および
規則性を考える上であえてこれらの不規則に抜けている箇所を覚える必要性は薄いだろう。
濁音・半濁音は文字の前に濁音符「⠐」・半濁音符「⠠」を付ける。
⠐⠡ ガ
⠠⠥ パ
説明の都合上、ローマ字を変形した次のような表記をする。
⠐⠡ Ka゛ ガ
⠠⠥ Ha゜ パ
表にしよう。
そして拗音符と濁音符・半濁音符は合体して1マスになる。
⠘⠡ Kya゛ ギャ
⠨⠥ Hya゜ ピャ
表にしよう。
ここまでが点字の基本だ。
特殊音に分類されるヴおよびイェ段が入っているが規則的なので説明は不要だろう。
次に特殊音で導入された新たな記号を紹介しよう。
⠢⠡ Kwa クァ
「⠈」が次の文字を拗音にするのに対し、「⠢」は次の文字を合拗音にする。
合拗音とは/w/音の入った音のことで、古くは火事(くゎじ)などの日本語に使われたが現代では外来語にしか使われない。
この記号に正式な名前は無いようだが、それでは説明しづらいのでここでは便宜的に「合拗音符」と呼ぶことにしよう。
新たな記号はこの1つだけだ。
合拗音符を使った規則的な点字を表にしよう。
濁音符と合拗音符が合体するのはいいだろう。
さてこれ以降はローマ字との対応が不規則になる。とはいえ大半はそこまで突拍子のない墨字に割り当てられるわけではない。十分理解可能だ。
ファは普通/fa/音に対応するものだが、外国語に含まれる/hwa/をファで表記する(そして/fa/で読む)ことも一般的だ。
例えば、
ファーウェイ (華為; Huawei)
ファン・ウソク (황우석; Hwang U Sŏk)
パブロ・ディエゴ・ホセ…ファン…ルイス・イ・ピカソ (…Juan…)
などの例がある。
またローマ字入力でも、Fが無くAIUEO,KSTNHMYRW,「゛゜小」の15キーで入力するものではファ行がHWAに割り当てられていたり、Google日本語入力のローマ字テーブルでもHWAでファが打てたりする。
ファ行がHwaになるのはそう不思議なことではないだろう。
Hwaが/fa/なのに対し、濁音符を足すと有声音の/va/になる。無声音有声音の対応から考えて自然である。合拗音符を無視すればバビベボに読めるのも嬉しいところだ。
ここで規則性からいけば「⠲⠭(Hwu゛)」は「ヴ」になりそうなところだ。
実際に1980年の改正前はそうだったのだが、現在は単純にウに濁音符を付けた「⠐⠉(∅u゛)」に割り当てられている。
/twa/でなく/tsa/なのは不規則で、これは覚えるほかない。
ただ、記号を増やすのも覚えにくいので、余っている記号を使ったと考えれば仕方なくはある。
⠈⠗ Tyi ティ
⠢⠝ Twu トゥ
これはチャ行とツァ行の隙間に入れられていることが分かる。
不規則だが、日本語の音韻の不規則さからタ行イ段が/ti/でなく/tʃi/、タ行ウ段が/tu/でなく/tsu/になっている中、余りがそこしか無かったということだろう。
これを日本点字表記法では「子音の取り替え」「行の補正」と表現している。
つまり、タ行にはチャ行ツァ行の子音をもつ音が紛れ込んでいるので、それで追い出された音をチャ行ツァ行と交換するというわけだ。
ところでPCのローマ字入力でもティ・トゥについては同じ問題に直面し、こちらではトゥは同じくTWUだが、ティに関してはいわば第3の拗音というべき「H」を用いてTHIとすることで解決している。
さて混乱させるようだが、1980年の改定以前はティ・トゥの点字は
⠠⠗ Ti゜ ティ
⠠⠝ Tu゜ トゥ
と半濁音符を使っていた。
アイヌ語表記でセ゚・ツ゚・ト゚と半濁点を使うこともあり、半濁音符の用法としてそこまでおかしいものではない。さらに子音の同じティとトゥで同じ規則が使える、なかなかよい表記だったように思う。
ではなぜ変更されてしまったのか。この理由については「日本の点字 第6号」に解説されているが、外字符との衝突のせいである。
ティ・トゥはよいのだが濁音のディ・ドゥでは半濁音符+濁音符をつけることになり、これが外字符と同一なのである。
⠰⠗ Ti゜゛ ディ → 外R
⠰⠝ Tu゜゛ ドゥ → 外N
これを変更することで単語中で外字を使うことが可能になったらしい。語頭の外字とディ・ドゥも文脈で判断する必要があったことになるし、変更もやむなしというところか。
⠨⠝ Tyu゜ テュ
これは、旧表記のトゥ「⠠⠝(Tu゜)」に拗音符を足したものだ。
ティ・トゥが変更されてこれだけ残ったせいで不規則になってしまっているが、旧表記を知れば規則的だったことが分かる。
なお現表記のトゥ「⠢⠝(Twu)」に拗音符を足そうと「拗音符+合拗音符」を作ると「⠪(コ)」になってしまう。
⠈⠳ Syi スィ
墨字のスィは、特に/ʃi/と区別して/si/を表す場合(例: スィー(C))と、/swi/を表す場合(例: スィーツ)がある。
点字の表記は墨字のカナに対応付けて定義されているためこれを区別することはないだろうが、この点字表記の由来を考えると/si/の方のようだ。
これは「日本の点字 第15号」p9にある1990年の改定の素案で発音記号表記として「si」となっていることから伺える。
よって/ti/・/tu/のときと同様に、シャ行との交換と見ることができる。
この表記は1990年の改正で導入されたものだが、もし1980年以前に存在したならきっと「⠠⠳(Si゜)」で表記されていたことだろう。
以上4つ、濁音符を足せば対応する濁音になる。
⠘⠗ Tyi゛ ディ
⠲⠝ Twu゛ ドゥ
⠸⠝ Tyu゜゛ デュ
⠘⠳ Syi゛ ズィ
さて最後だ。
…これは怒っていい。
子音は合ってないし、ローマ字に対応させると「Yy」なんて意味の分からない表記だし、更に半濁点まで付いている。
ただ、まあ、他に思いつかなくはある。
これらは1990年の改定で追加されたものだが、その時点でH系には既に
があり、
を残し全ての行を使い切ってしまっている。
ここでフャ行ヴャ行の2つをどこに入れるかと考えると、別の子音の行に入れるしかなかったのだろう。
フュ・ヴュだけならまだHwuとHwu゛に入れることもできた。実際「日本の点字 第15号」の案ではそうなっていたのだが、おそらくは国語審議会の答申に「例えば」としてフョ・ヴョも含まれたために変更されたのだろう。
なお半濁音符まで使っている理由だが、「⠈⠬(Yyu)」「⠈⠜(Yyo)」「⠘⠬(Yyu゛)」「⠘⠜(Yyo゛)」としてしまうと、濁音符+拗音符「⠘」が小文字符と衝突するためである。
以上まとめると、点字の特殊音に関して覚えることは、
・合拗音符が追加
・hw行はファ行
・tw行はツァ行
・日本語の音韻体系の不規則性のために収まらない音は行を交換する
・ティ・トゥに昔は半濁音符を使っていた名残りがテュ
・フャ行ヴャ行だけは本当に不規則
といったところである。フャ行ヴャ行を除けばさほど不規則でもないことが分かっていただけただろうか。
ところで余談だが、墨字ではヤ行イ段/ji/やワ行ウ段/wu/の仮名が無い。
またハ行ウ段「フ」は/fu/音のため、/hu/の表記法もない。
このため、yearとear、fooとwhoの区別がつかなかったり、/u/と/wu/も単語は思いつかないが表記し分けられず困ることがある。
しかし点字ではこれらの音に規則的に対応付けられるパターンが残っている。
⠈⠃ ∅yi /ji/
⠢⠉ ∅wu /wu/
⠢⠭ Hwu /hu/
外国語学習者は使うと便利かもしれない。
(ツイート表示用画像→
)
それはよいのだが、見つけたページの大半がただ並べているだけで、規則性についての説明がない。
更には「規則性は無いので覚えよう」とか「覚えられません助けて」「頑張れ」のようなものもあった。
いや規則性めっちゃあるよね。
不規則な部分もあるにはあるが、大半は普通の点字や日本語の音韻体系から類推できる。
ちょっと解説してみよう。
まず点字の通常の音の表記は既に理解していることを前提とするが、特殊音の説明の下準備として軽くまとめる。
日本語の点字はローマ字に対応させると分かりやすい。
まずは清音の点字と墨字の対応をローマ字とあわせて表にしよう。
⠁ | ⠃ | ⠉ | ⠋ | ⠊ | ∅a | ∅i | ∅u | ∅e | ∅o | ア | イ | ウ | エ | オ | ||
⠡ | ⠣ | ⠩ | ⠫ | ⠪ | Ka | Ki | Ku | Ke | Ko | カ | キ | ク | ケ | コ | ||
⠱ | ⠳ | ⠹ | ⠻ | ⠺ | Sa | Si | Su | Se | So | サ | シ | ス | セ | ソ | ||
⠕ | ⠗ | ⠝ | ⠟ | ⠞ | Ta | Ti | Tu | Te | To | タ | チ | ツ | テ | ト | ||
⠅ | ⠇ | ⠍ | ⠏ | ⠎ | Na | Ni | Nu | Ne | No | ナ | ニ | ヌ | ネ | ノ | ||
⠥ | ⠧ | ⠭ | ⠯ | ⠮ | Ha | Hi | Hu | He | Ho | ハ | ヒ | フ | ヘ | ホ | ||
⠵ | ⠷ | ⠽ | ⠿ | ⠾ | Ma | Mi | Mu | Me | Mo | マ | ミ | ム | メ | モ | ||
⠌ | - | ⠬ | - | ⠜ | Ya | -- | Yu | -- | Yo | ヤ | -- | ユ | -- | ヨ | ||
⠑ | ⠓ | ⠙ | ⠛ | ⠚ | Ra | Ri | Ru | Re | Ro | ラ | リ | ル | レ | ロ | ||
⠄ | ⠆ | - | ⠖ | ⠔ | Wa | Wi | -- | We | Wo | ワ | ヰ | -- | ヱ | ヲ |
点字の拗音は、対応する清音の前に拗音符「⠈」を付ける。
⠡ Ka カ → ⠈⠡ Kya キャ
「⠡」が「Ka」に相当し、「⠈」が「y」に相当する。
表にしよう。
⠈⠁ | ⠈⠃ | ⠈⠉ | ⠈⠋ | ⠈⠊ | ∅ya | ∅yi | ∅yu | ∅ye | ∅yo | × | × | × | イェ | × | ||
⠈⠡ | ⠈⠣ | ⠈⠩ | ⠈⠫ | ⠈⠪ | Kya | Kyi | Kyu | Kye | Kyo | キャ | × | キュ | キェ | キョ | ||
⠈⠱ | ⠈⠳ | ⠈⠹ | ⠈⠻ | ⠈⠺ | Sya | Syi | Syu | Sye | Syo | シャ | × | シュ | シェ | ショ | ||
⠈⠕ | ⠈⠗ | ⠈⠝ | ⠈⠟ | ⠈⠞ | Tya | Tyi | Tyu | Tye | Tyo | チャ | × | チュ | チェ | チョ | ||
⠈⠅ | ⠈⠇ | ⠈⠍ | ⠈⠏ | ⠈⠎ | Nya | Nyi | Nyu | Nye | Nyo | ニャ | × | ニュ | ニェ | ニョ | ||
⠈⠥ | ⠈⠧ | ⠈⠭ | ⠈⠯ | ⠈⠮ | Hya | Hyi | Hyu | Hye | Hyo | ヒャ | × | ヒュ | ヒェ | ヒョ | ||
⠈⠵ | ⠈⠷ | ⠈⠽ | ⠈⠿ | ⠈⠾ | Mya | Myi | Myu | Mye | Myo | ミャ | × | ミュ | ミェ | ミョ | ||
⠈⠑ | ⠈⠓ | ⠈⠙ | ⠈⠛ | ⠈⠚ | Rya | Ryi | Ryu | Rye | Ryo | リャ | × | リュ | リェ | リョ |
灰色で示した墨字は、本来未定義なのだが、規則性を分かりやすくするため、規則から想定される墨字を埋めた。
というのも、どうも日本点字表記法の特殊音は国語審議会の示す『外来語の表記』に含まれる仮名と対応するように作られているらしく、これの第1・2表および
特別な音の書き表し方については、取決めを行わず、自由とすることとしたが、その中には、例えば、「スィ」「ズィ」「グィ」「グェ」「グォ」「キェ」「ニェ」「ヒェ」「フョ」「ヴョ」等の仮名が含まれる。と示された例のみが含まれ、それ以外は規則的に表せる文字でも含まれていない。
規則性を考える上であえてこれらの不規則に抜けている箇所を覚える必要性は薄いだろう。
濁音・半濁音は文字の前に濁音符「⠐」・半濁音符「⠠」を付ける。
⠐⠡ ガ
⠠⠥ パ
説明の都合上、ローマ字を変形した次のような表記をする。
⠐⠡ Ka゛ ガ
⠠⠥ Ha゜ パ
表にしよう。
⠐⠁ | ⠐⠃ | ⠐⠉ | ⠐⠋ | ⠐⠊ | ∅a゛ | ∅i゛ | ∅u゛ | ∅e゛ | ∅o゛ | × | × | ヴ | × | × | ||
⠐⠡ | ⠐⠣ | ⠐⠩ | ⠐⠫ | ⠐⠪ | Ka゛ | Ki゛ | Ku゛ | Ke゛ | Ko゛ | ガ | ギ | グ | ゲ | ゴ | ||
⠐⠱ | ⠐⠳ | ⠐⠹ | ⠐⠻ | ⠐⠺ | Sa゛ | Si゛ | Su゛ | Se゛ | So゛ | ザ | ジ | ズ | ゼ | ゾ | ||
⠐⠕ | ⠐⠗ | ⠐⠝ | ⠐⠟ | ⠐⠞ | Ta゛ | Ti゛ | Tu゛ | Te゛ | To゛ | ダ | ヂ | ヅ | デ | ド | ||
⠐⠥ | ⠐⠧ | ⠐⠭ | ⠐⠯ | ⠐⠮ | Ha゛ | Hi゛ | Hu゛ | He゛ | Ho゛ | バ | ビ | ブ | ベ | ボ | ||
⠠⠥ | ⠠⠧ | ⠠⠭ | ⠠⠯ | ⠠⠮ | Ha゜ | Hi゜ | Hu゜ | He゜ | Ho゜ | パ | ピ | プ | ペ | ポ |
そして拗音符と濁音符・半濁音符は合体して1マスになる。
⠘⠡ Kya゛ ギャ
⠨⠥ Hya゜ ピャ
表にしよう。
⠘⠡ | ⠘⠣ | ⠘⠩ | ⠘⠫ | ⠘⠪ | Kya゛ | Kyi゛ | Kyu゛ | Kye゛ | Kyo゛ | ギャ | × | ギュ | ギェ | ギョ | ||
⠘⠱ | ⠘⠳ | ⠘⠹ | ⠘⠻ | ⠘⠺ | Sya゛ | Syi゛ | Syu゛ | Sye゛ | Syo゛ | ジャ | × | ジュ | ジェ | ジョ | ||
⠘⠕ | ⠘⠗ | ⠘⠝ | ⠘⠟ | ⠘⠞ | Tya゛ | Tyi゛ | Tyu゛ | Tye゛ | Tyo゛ | ヂャ | × | ヂュ | ヂェ | ヂョ | ||
⠘⠥ | ⠘⠧ | ⠘⠭ | ⠘⠯ | ⠘⠮ | Hya゛ | Hyi゛ | Hyu゛ | Hye゛ | Hyo゛ | ビャ | × | ビュ | ビェ | ビョ | ||
⠨⠥ | ⠨⠧ | ⠨⠭ | ⠨⠯ | ⠨⠮ | Hya゜ | Hyi゜ | Hyu゜ | Hye゜ | Hyo゜ | ピャ | × | ピュ | ピェ | ピョ |
ここまでが点字の基本だ。
特殊音に分類されるヴおよびイェ段が入っているが規則的なので説明は不要だろう。
次に特殊音で導入された新たな記号を紹介しよう。
⠢⠡ Kwa クァ
「⠈」が次の文字を拗音にするのに対し、「⠢」は次の文字を合拗音にする。
合拗音とは/w/音の入った音のことで、古くは火事(くゎじ)などの日本語に使われたが現代では外来語にしか使われない。
この記号に正式な名前は無いようだが、それでは説明しづらいのでここでは便宜的に「合拗音符」と呼ぶことにしよう。
新たな記号はこの1つだけだ。
合拗音符を使った規則的な点字を表にしよう。
⠢⠁ | ⠢⠃ | ⠢⠉ | ⠢⠋ | ⠢⠊ | ∅wa | ∅wi | ∅wu | ∅we | ∅wo | × | ウィ | × | ウェ | ウォ | ||
⠢⠡ | ⠢⠣ | ⠢⠩ | ⠢⠫ | ⠢⠪ | Kwa | Kwi | Kwu | Kwe | Kwo | クァ | クィ | × | クェ | クォ | ||
⠲⠡ | ⠲⠣ | ⠲⠩ | ⠲⠫ | ⠲⠪ | Kwa゛ | Kwi゛ | Kwu゛ | Kwe゛ | Kwo゛ | グァ | グィ | × | グェ | グォ |
さてこれ以降はローマ字との対応が不規則になる。とはいえ大半はそこまで突拍子のない墨字に割り当てられるわけではない。十分理解可能だ。
⠢⠥ | ⠢⠧ | ⠢⠭ | ⠢⠯ | ⠢⠮ | Hwa | Hwi | Hwu | Hwe | Hwo | ファ | フィ | × | フェ | フォ |
ファは普通/fa/音に対応するものだが、外国語に含まれる/hwa/をファで表記する(そして/fa/で読む)ことも一般的だ。
例えば、
ファーウェイ (華為; Huawei)
ファン・ウソク (황우석; Hwang U Sŏk)
パブロ・ディエゴ・ホセ…ファン…ルイス・イ・ピカソ (…Juan…)
などの例がある。
またローマ字入力でも、Fが無くAIUEO,KSTNHMYRW,「゛゜小」の15キーで入力するものではファ行がHWAに割り当てられていたり、Google日本語入力のローマ字テーブルでもHWAでファが打てたりする。
ファ行がHwaになるのはそう不思議なことではないだろう。
⠲⠥ | ⠲⠧ | ⠲⠭ | ⠲⠯ | ⠲⠮ | Hwa゛ | Hwi゛ | Hwu゛ | Hwe゛ | Hwo゛ | ヴァ | ヴィ | × | ヴェ | ヴォ |
Hwaが/fa/なのに対し、濁音符を足すと有声音の/va/になる。無声音有声音の対応から考えて自然である。合拗音符を無視すればバビベボに読めるのも嬉しいところだ。
ここで規則性からいけば「⠲⠭(Hwu゛)」は「ヴ」になりそうなところだ。
実際に1980年の改正前はそうだったのだが、現在は単純にウに濁音符を付けた「⠐⠉(∅u゛)」に割り当てられている。
⠢⠕ | ⠢⠗ | ⠢⠝ | ⠢⠟ | ⠢⠞ | Twa | Twi | Twu | Twe | Two | ツァ | ツィ | × | ツェ | ツォ |
/twa/でなく/tsa/なのは不規則で、これは覚えるほかない。
ただ、記号を増やすのも覚えにくいので、余っている記号を使ったと考えれば仕方なくはある。
⠈⠗ Tyi ティ
⠢⠝ Twu トゥ
これはチャ行とツァ行の隙間に入れられていることが分かる。
⠈⠕ | ⠈⠗ | ⠈⠝ | ⠈⠟ | ⠈⠞ | Tya | Tyi | Tyu | Tye | Tyo | チャ | ティ | チュ | チェ | チョ | ||
⠢⠕ | ⠢⠗ | ⠢⠝ | ⠢⠟ | ⠢⠞ | Twa | Twi | Twu | Twe | Two | ツァ | ツィ | トゥ | ツェ | ツォ |
不規則だが、日本語の音韻の不規則さからタ行イ段が/ti/でなく/tʃi/、タ行ウ段が/tu/でなく/tsu/になっている中、余りがそこしか無かったということだろう。
これを日本点字表記法では「子音の取り替え」「行の補正」と表現している。
つまり、タ行にはチャ行ツァ行の子音をもつ音が紛れ込んでいるので、それで追い出された音をチャ行ツァ行と交換するというわけだ。
⠢⠕ | ⠢⠗ | ⠢⠝ | ⠢⠟ | ⠢⠞ | /tsa/ | /tsi/ | /tu/ | /tse/ | /tso/ | |
↕ | ↕ | |||||||||
⠕ | ⠗ | ⠝ | ⠟ | ⠞ | /ta/ | /tʃi/ | /tsu/ | /te/ | /to/ | |
↕ | ↕ | |||||||||
⠈⠕ | ⠈⠗ | ⠈⠝ | ⠈⠟ | ⠈⠞ | /tʃa/ | /ti/ | /tʃu/ | /tʃe/ | /tʃo/ |
さて混乱させるようだが、1980年の改定以前はティ・トゥの点字は
⠠⠗ Ti゜ ティ
⠠⠝ Tu゜ トゥ
と半濁音符を使っていた。
アイヌ語表記でセ゚・ツ゚・ト゚と半濁点を使うこともあり、半濁音符の用法としてそこまでおかしいものではない。さらに子音の同じティとトゥで同じ規則が使える、なかなかよい表記だったように思う。
ではなぜ変更されてしまったのか。この理由については「日本の点字 第6号」に解説されているが、外字符との衝突のせいである。
ティ・トゥはよいのだが濁音のディ・ドゥでは半濁音符+濁音符をつけることになり、これが外字符と同一なのである。
⠰⠗ Ti゜゛ ディ → 外R
⠰⠝ Tu゜゛ ドゥ → 外N
これを変更することで単語中で外字を使うことが可能になったらしい。語頭の外字とディ・ドゥも文脈で判断する必要があったことになるし、変更もやむなしというところか。
⠨⠝ Tyu゜ テュ
これは、旧表記のトゥ「⠠⠝(Tu゜)」に拗音符を足したものだ。
ティ・トゥが変更されてこれだけ残ったせいで不規則になってしまっているが、旧表記を知れば規則的だったことが分かる。
なお現表記のトゥ「⠢⠝(Twu)」に拗音符を足そうと「拗音符+合拗音符」を作ると「⠪(コ)」になってしまう。
⠈⠳ Syi スィ
墨字のスィは、特に/ʃi/と区別して/si/を表す場合(例: スィー(C))と、/swi/を表す場合(例: スィーツ)がある。
点字の表記は墨字のカナに対応付けて定義されているためこれを区別することはないだろうが、この点字表記の由来を考えると/si/の方のようだ。
これは「日本の点字 第15号」p9にある1990年の改定の素案で発音記号表記として「si」となっていることから伺える。
よって/ti/・/tu/のときと同様に、シャ行との交換と見ることができる。
⠱ | ⠳ | ⠹ | ⠻ | ⠺ | /sa/ | /ʃi/ | /su/ | /se/ | /so/ | |
↕ | ↕ | |||||||||
⠈⠱ | ⠈⠳ | ⠈⠹ | ⠈⠻ | ⠈⠺ | /ʃa/ | /si/ | /ʃu/ | /ʃe/ | /ʃo/ |
以上4つ、濁音符を足せば対応する濁音になる。
⠘⠗ Tyi゛ ディ
⠲⠝ Twu゛ ドゥ
⠸⠝ Tyu゜゛ デュ
⠘⠳ Syi゛ ズィ
さて最後だ。
⠨⠌ | ⠨⠬ | ⠨⠜ | Yya゜ | Yyu゜ | Yyo゜ | フャ | フュ | フョ | ||
⠸⠌ | ⠸⠬ | ⠸⠜ | Yya゜゛ | Yyu゜゛ | Yyo゜゛ | ヴャ | ヴュ | ヴョ |
…これは怒っていい。
子音は合ってないし、ローマ字に対応させると「Yy」なんて意味の分からない表記だし、更に半濁点まで付いている。
ただ、まあ、他に思いつかなくはある。
これらは1990年の改定で追加されたものだが、その時点でH系には既に
⠐⠥ | ⠐⠧ | ⠐⠭ | ⠐⠯ | ⠐⠮ | Ha゛ | Hi゛ | Hu゛ | He゛ | Ho゛ | バ | ビ | ブ | ベ | ボ | ||
⠠⠥ | ⠠⠧ | ⠠⠭ | ⠠⠯ | ⠠⠮ | Ha゜ | Hi゜ | Hu゜ | He゜ | Ho゜ | パ | ピ | プ | ペ | ポ | ||
⠈⠥ | ⠈⠧ | ⠈⠭ | ⠈⠯ | ⠈⠮ | Hya | Hyi | Hyu | Hye | Hyo | ヒャ | × | ヒュ | ヒェ | ヒョ | ||
⠘⠥ | ⠘⠧ | ⠘⠭ | ⠘⠯ | ⠘⠮ | Hya゛ | Hyi゛ | Hyu゛ | Hye゛ | Hyo゛ | ビャ | × | ビュ | ビェ | ビョ | ||
⠨⠥ | ⠨⠧ | ⠨⠭ | ⠨⠯ | ⠨⠮ | Hya゜ | Hyi゜ | Hyu゜ | Hye゜ | Hyo゜ | ピャ | × | ピュ | ピェ | ピョ | ||
⠢⠥ | ⠢⠧ | ⠢⠭ | ⠢⠯ | ⠢⠮ | Hwa | Hwi | Hwu | Hwe | Hwo | ファ | フィ | × | フェ | フォ | ||
⠲⠥ | ⠲⠧ | ⠲⠭ | ⠲⠯ | ⠲⠮ | Hwa゛ | Hwi゛ | Hwu゛ | Hwe゛ | Hwo゛ | ヴァ | ヴィ | × | ヴェ | ヴォ |
⠸⠥ | ⠸⠧ | ⠸⠭ | ⠸⠯ | ⠸⠮ | Hya゜゛ | Hyi゜゛ | Hyu゜゛ | Hye゜゛ | Hyo゜゛ |
ここでフャ行ヴャ行の2つをどこに入れるかと考えると、別の子音の行に入れるしかなかったのだろう。
フュ・ヴュだけならまだHwuとHwu゛に入れることもできた。実際「日本の点字 第15号」の案ではそうなっていたのだが、おそらくは国語審議会の答申に「例えば」としてフョ・ヴョも含まれたために変更されたのだろう。
なお半濁音符まで使っている理由だが、「⠈⠬(Yyu)」「⠈⠜(Yyo)」「⠘⠬(Yyu゛)」「⠘⠜(Yyo゛)」としてしまうと、濁音符+拗音符「⠘」が小文字符と衝突するためである。
以上まとめると、点字の特殊音に関して覚えることは、
・合拗音符が追加
・hw行はファ行
・tw行はツァ行
・日本語の音韻体系の不規則性のために収まらない音は行を交換する
・ティ・トゥに昔は半濁音符を使っていた名残りがテュ
・フャ行ヴャ行だけは本当に不規則
といったところである。フャ行ヴャ行を除けばさほど不規則でもないことが分かっていただけただろうか。
ところで余談だが、墨字ではヤ行イ段/ji/やワ行ウ段/wu/の仮名が無い。
またハ行ウ段「フ」は/fu/音のため、/hu/の表記法もない。
このため、yearとear、fooとwhoの区別がつかなかったり、/u/と/wu/も単語は思いつかないが表記し分けられず困ることがある。
しかし点字ではこれらの音に規則的に対応付けられるパターンが残っている。
⠈⠃ ∅yi /ji/
⠢⠉ ∅wu /wu/
⠢⠭ Hwu /hu/
外国語学習者は使うと便利かもしれない。
(ツイート表示用画像→

Post time : 2016年11月06日 03:34│Comments(2)
この記事へのコメント
点訳ボランティアをしている者です。
今回初めて一人で1冊をと頑張って始めましたが、
ヴャをどうして点訳すれば良いのか・・・・。
ここで初めて解決しました。
ありがとうございました。
本当に助かりました。
今回初めて一人で1冊をと頑張って始めましたが、
ヴャをどうして点訳すれば良いのか・・・・。
ここで初めて解決しました。
ありがとうございました。
本当に助かりました。
Posted by チェリーママ at 2018年04月27日 19:05
ありがとうございます。
しかし勘違いされているようです。「ヴャ」の点字は定義されていません。
冒頭に述べたように、灰色で示した墨字は、点字の規則を考える上で「仮にその墨字に対応すると考えると規則が分かりやすくなる」ことを示します。
点訳の慣習については詳しくありませんが、「ヴャ」は注を付けた上で「ビャ」や「ヴヤ」に置き換えて点訳するのが妥当ではないでしょうか。
冒頭で「この文章ではヴャを独自に『⠸⠌』と書くことにする」などと断れば使ってよいかもしれません。
なお文章中ではなく墨字の正確な綴りを示す用途には小文字符「⠘」が使えます。
しかし勘違いされているようです。「ヴャ」の点字は定義されていません。
冒頭に述べたように、灰色で示した墨字は、点字の規則を考える上で「仮にその墨字に対応すると考えると規則が分かりやすくなる」ことを示します。
点訳の慣習については詳しくありませんが、「ヴャ」は注を付けた上で「ビャ」や「ヴヤ」に置き換えて点訳するのが妥当ではないでしょうか。
冒頭で「この文章ではヴャを独自に『⠸⠌』と書くことにする」などと断れば使ってよいかもしれません。
なお文章中ではなく墨字の正確な綴りを示す用途には小文字符「⠘」が使えます。
Posted by いかづちSqueak
at 2018年05月04日 00:04
