たまりば

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時計は周波数が高いほど精度が高いって誤解はなんなんだろう
2022年07月23日 13:32

時計は周波数が高いほど精度が高い。
それが証拠に、機械式時計は5Hz、クオーツ時計は32kHz、原子時計は92億Hzだ。
というような理論を見かけることがある。時には機械式とクオーツの間に数百Hzの音叉時計が入ったりもする。
どこから来た誤解なんだろう。

1秒に1回狂ったとすると5Hzなら20%のずれだが32kHzなら0.003%のずれで済む
といった説明がされることがあるが、前提が問題だ。なぜ「1秒に1回狂ったとする」のか。
これは「機械式が5回に1回、クオーツが32768回に1回狂ったとすると後者が精度が良い」と言っているのと変わらない。ただのトートロジーである。
「1秒に1回狂ったとする」ならまずその仮定が妥当である理屈の説明が必要だ。
例えばだが、もし仮に「時計の狂いの原因は不規則に瞬間的に加わる外乱であり、外乱が加わるとどんな仕組みの時計もきっかり1クロック分の時間だけ狂いを生じる」というような状況であればそれもありうるかもしれない。(が、そんなことは考えづらい)
そもそもこの説明では精度が周波数に比例することになるが、現実の機械式・クオーツ・原子時計の精度はそのような比例関係にはない。つまり、仮にこの理論が正しい場合でさえも、誤差の主要因は他にあることになる。

また、周波数が高いほど精度が良いならなぜメガヘルツ単位の水晶振動子はありふれているのに時計用はみな32kHzなのか。周波数と精度に関係がないことの証左だ。
でもなぜだろう。調べてみたところ、EPSONのサイトによれば周波数が高いほど振動子を小さくできるが消費電力が増えるというトレードオフがあるようだ。精度については触れられていない。
http://www5.epsondevice.com/ja/information/technical_info/qmems/story2_1.html
音叉型水晶振動子を小型化するには、振動周波数を高めればいい。原理を考えれば、当たり前のことである
「振動周波数を高めれば、消費電力が増大する」ことは、開発に着手する前から原理的に分かっていた。

さて誤解の出どころだが、どうも機械式腕時計では周波数の高さが高精度の要因の1つだったようだ。
色々と情報を総合すると、弾み車の質量・大きさ・角速度を大きくすると精度が上がるらしい。すなわち運動エネルギーが大きいほうがよいということになる。その理由の説明までは見つからなかったが、少なくとも(腕時計に加わるような物理的な)外乱に対しての耐性は運動エネルギーが大きい方が強いだろうと想像がつく。
運動エネルギーを大きくするにあたり、腕時計サイズに収めるには質量や大きさには限界がある。角速度を増やしたら回転角か振動数が増えることになり、回転角は360°を超えることは難しそうなので、あとは振動数を増やすしかない。ということでこれが差別化要因になったのだろう。
つまり周波数を高めるというのは、サイズに制限のある・可搬式の・機械式時計についてのみ成り立つ原理ということになるが、これがあらゆる時計についての原理だと誤解されて広まってしまったということではなかろうか。

悪いことに、実際に一般的な機械式・クオーツ・原子時計がこの順に精度が良いのは事実である。
ではこれらの精度の違いは何によるものかということになるのだが、思うに構造の複雑さや外乱への耐性によるものではないか。
機械式時計の心臓部はテンプ・ヒゲゼンマイ・アンクル・ガンギ車といった複数の部品でできている。これらの部品間や軸との間で摩擦が起きるし、熱膨張もする。それら複数の要因が精度に影響する。機械式の仕掛けでそれらをキャンセルするのは大変だ。また部品は時々刻々と磨り減って形が変わっていくだろう。
それなりの大きさのものが振動しているので物理的な外乱も受けやすい。機械式時計は重力の掛かる方向で進みが変わってしまうという。それを防ぐためにトゥールビヨンが発明されたりもした。
対してクオーツ時計では水晶発振子というただ1つの部品で精度が決まる。小型なので重力など外乱の影響は相対的に少ない。温度による進みの違いはあるが影響は確定的なので温度を測ればコンピュータ制御でキャンセルも容易だ。更に精度を上げたければ温度を一定に保つ方法もある。
原子時計は原子という究極の一様性を使っている。

周波数が高いほど精度が高いのはただの偶然だろうか。
考えられる要因としては、様々な外乱を排除するためには部品は小さい方が都合がよく、小さいものは振動の周波数が高いという関係だ。
外乱を排除すればよいわけで、0.5Hzの振り子を真空中に置き、極力外乱を与えないようにすればクオーツ時計を上回る2.31ppbを達成できたりもする。
https://en.wikipedia.org/wiki/Shortt-Synchronome_clock